吊り落としといえば、かつて寺尾の張り手に怒った千代の富士の豪快な吊り落としがありました。後ろから抱え上げて叩き落とすような吊り落とし。日馬富士も新入幕で優勝争いに加わっていたときの豪栄道を、後ろから叩き落としたことがありましたね。
朝青龍の吊り落としもすぐに思い浮かびますが、これは両差しになってから、さらに下手を深く引き直し、相手の斜め後ろ気味のところから吊り落とすものです。一見豪快な荒業のようですが、正直ピンとこないのです。それは後ろを制したり、両差しからだったりと、完全に有利な体勢で決めているからです。
まったく五分の四つ身の体勢で真正面から吊り落としてこそ、本物の豪快な荒業といえるでしょう。「東北の暴れん坊」、陸奥嵐の吊り落としは本物の荒業でした。
昭和42年春場所新入幕、いきなり13勝を上げます。177cm・115kgは当時としても大きい方ではありませんでしたが、相手を組みとめると、ほぼ真上に吊り上げるのが得意技。
この体勢で、本当にいきなりという感じで正面に放り投げてしまうのですから、豪快無比。若手の頃から少し老け顔で、いつも不機嫌そうな表情は、まさに暴れん坊と呼ぶにふさわしいものでした。
河津掛けも強烈で、後ろにつかれた絶体絶命の体勢から強引に左足を掛け、踏ん張るところを右から真後ろに突き倒すように決め、やられた相手は派手な弧を描いて裏返しになりました。
「足を掛けたら、自分から倒れ込むように決める」、ということなのですが、「相手は痛いので、我慢できずに倒れる」ようですね。相手が痛がるのがうれしそうなのは、さすが「東北の暴れん坊」です。吊り落としの画像も痛そうです。陸奥嵐という四股名と相撲振りも、ニックネーム同様に見事にマッチングした、そんな力士でした。