北の富士 輪島

白鵬 の張り手と猪木のビンタと、フーテンの寅さん





若貴・曙・魁皇の「花のロクサン春組」に、力櫻という力士がおりました。後にプロレスラーの力皇になった力士ですね。その力皇がプロレスラー時のインタビューで、次のようなことを語っていました。

「大相撲出身のレスラーは打たれ強いから、これぐらいならと受けているうちにダメージがたまってしまうのが欠点」といった内容でした。プロレスラー時代の天龍と輪島にも、力士の打たれ強さを物語ることがありました。

輪島の額を、シューズの紐の跡が残るほどに蹴り上げる天龍。この場面を、天龍と対談した前田日明が「エゲツない攻撃だなぁ」と言うと、天龍は事も無げに「力士のココは、鍛えてあるからね」と、おデコを指さしました。

エゲツない攻撃の権化のような前田日明をして震え上がらせた天龍のキックでしたが、輪島もそんなに頭から当たる相撲ではなかっただけに、それでも力士の打たれ強さの半端無さが分かるというものでした。

ここまでは以前も書いたことで、付け加えるとプロレス転向後の輪島の練習量は凄かったことと、天龍が率先して「横綱、横綱」と呼んで、コミュニケーションを図り、輪島をサポートしたこと、そして天龍VS輪島により輪島はプロレスに爪痕を残すことが出来たということです。輪島と天龍の関係を誤解している方も多そうなので、余談ですが。

などとプロレスの話を書いておりますが、白鵬の張り手を、今回はプロレスの観点から見てみようと思います。張り手と言えば、アントニオ猪木ですね。猪木の場合は張り手と言うより、「ビンタ」の方が通りが良いでしょうが、試合中のシリアスなヤツは「張り手」と呼んでました。

アントニオ猪木が試合で張り手を多用し始めたのは、昭和56年にラッシャー木村・アニマル浜口が参戦してからです。なぜ猪木は張り手を使ったかというと、遺恨試合として抗争を始める必要があったからです。そして猪木の張り手によって、試合は盛り上がりました。

これ以後、張り手の打ち合いは一つのプロレスの攻防のパターンとなっていくわけです。試合をヒートアップするために、多用されるようになります。それを考えると、張り手は品位のある技ではありません。反則ではなくても。試合を刺激的にして、感情的な展開にするスパイスになっています。

大相撲と同じでグーパンチは反則、張り手とエルボーは大丈夫のプロレス。しかし喧嘩ファイトに持っていかない展開では、当然ですが張り手が繰り出されることはありません。ならば、やはり横綱の品格に相応しい技ではない、と言えそうです。

それでも、やはり「張り手は反則じゃない」という、ある意味で(ある意味でという言い方自体、変ですが)真っ当な意見も非常に多くあります。「小柄な力士が勝機を見出すには、必要だ」と。確かに旭道山などは、そうでした。

これについては私は、サッカーの「オフサイド」の感覚がピタリとくると思うのです。サッカーには詳しくはないのですが、「そこにいたら、そりゃあんまりだ」的なものが、オフサイドポジションになったのではないでしょうか。旭道山なら「それは、まぁ、しょうがない」が、白鵬なら「それをやっちゃ、そりゃあんまりだ」と。

プロレスにおいては、張り手は展開をヒートアップさせるものでした。大相撲では、小兵が大型力士や横綱に対する突破口に使っていました。通常の展開を非日常に変える、どちらも使われる意味合いは似ていました。張り手が非日常の技という部分で。

だから普通に白鵬が使うことに、私は違和感を持つのでしょう。白鵬が上位に初挑戦した頃の、魁皇や武双山に張り差しをした場面と、今の白鵬の張り差しとの距離感ですね。

オフサイド・・・日本人的な曖昧さ、と言えるかもしれませんが、極めて日本人的心の代表のフーテンの寅さんも言ってました、「それを言っちゃ、お終いよ」と。「白鵬が、それをやっちゃ、お終いよ」・・・張り差しの隙を突いてほしいという気持ちも、あるっちゃ、あるんですが。

正直言って、白鵬の張り手を語ろうとしたら、「100%、こうあるべきだ!」は難しいっスね。しかし、白鵬も脅かされる若手力士が登場したら、白鵬の必死の張り手が出たとしても、誰もオフサイドとは感じないでしょう。

今日の画像は番付を駆け上がってきた頃の輪島に、北の富士が張り手で応戦しているものです。当時の輪島の勢いを考えたら、北の富士の張り手はオフサイドではないですね。

北の富士 輪島

大相撲力士名鑑 : 白鵬

 

パワーストーンブレスレット:ローズクォーツで赤房をイメージしました




2件のコメント

  1. もうNHKのアナウンサーが「立合いに張り差しを選択しました」と、日常の出来事のように実況している。張り手は大相撲の作戦のひとつとして認知されてしまった。
    今では白鵬だけではなく、他の横綱・大関も張り差しを(頻度の差はあれ)選択する。白鵬が39回優勝・1050勝の大横綱である以上、他の力士も「見習う」のは当然だろう。張り手の是非を論じる前に、実践が普及してしまった。もう誰も止めることはできない。大相撲の形態が変わってしまった。
    今年に入ってから、長期療養が必要なケガを負ったプロレスラーが続出している。プロレスと相撲では体の動きも異なるだろうが、いずれ張り手の後遺症に苦しむ力士が出てくるのではないか。どこかで歯止めを掛ける必要はあるだろうが、現時点では(少なくとも目に見える形では)全くそんな動きはない。

  2. shin2さんへ
    コメント、ありがとうございます。
    プロレスも、草創期の2時間もかかるようなマラソンマッチの時代から、ルー=テーズの時代、NWA全盛からWWEへ、スタイルは変わり続けています。大相撲も前回に書いたように、双葉山や安藝ノ海から栃若までで近代相撲が確立し、その後は力士重量化に伴い、相撲内容も変化を余儀なくされています。その中で、守るべきものをキチンと把握することは必要だと思いますが、実際の土俵は、ただただ見守ることしかできないですね。

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