貴乃花

貴乃花 は僕らに夢を見させてくれた横綱だった、そして今ふたたび・・・

父は「角界のプリンス」大関貴ノ花、伯父は「土俵の鬼」横綱初代若乃花。貴乃花がマスコミに登場した時から、それは宿命でした。

父の貴ノ花は本当に長い間、土俵のど真ん中にいた力士。70場所を数える幕内在位の間、常に大相撲人気を支える柱といえる存在でした。そして貴ノ花は極めつけの幾多の大熱戦を繰り広げ、大相撲史上最高の花形力士となります。

貴ノ花

しかし一つだけ、大相撲ファンに叶えられなかった夢を残しました。それは「横綱貴ノ花」。貴乃花が大相撲ファンの前に現れたときから、大相撲ファンは「叶えられなかった夢~横綱」を貴乃花に託すことになります。貴ノ花の幻影とともに。

貴乃花が貴花田で登場した頃、ガッカリしたのを覚えています。貴乃花の力士体型ではない、足の長さ。「これは横綱はダメだな」、最初に貴乃花を見た感想はコレでした。貴ノ花の息子が横綱になる夢・・・無理だ、やはり夢は「見果てぬ夢」で終わるのだ・・・。

しかし貴乃花は「見果てぬ夢」を、実現してみせました。それは「若貴ブーム」の喧騒の中で、かつての貴ノ花の感傷に浸る間もなく、夢は現実のものとなります。

貴乃花

横綱になった貴乃花に、もう父貴ノ花の幻影を見る大相撲ファンはいなかったでしょう。なぜなら貴乃花は、あまりにも強かったからです。軽量のために北の湖輪島に苦杯をなめてきた貴ノ花の記憶は、もう横綱貴乃花に重ならなくなりました。

貴乃花 寄り切り

当時、貴乃花の強さは双葉山と並び称され、歴代最強横綱の可能性を語られるほどでした。この頃、大相撲ファンが考えていたのは破られることはないと思われてきた大記録、大鵬の優勝32回の記録更新だったと思います。15~20回目までの優勝は、貴乃花は大鵬とほぼ同じペースでした。

貴乃花は夢を現実にする横綱・・・平成13年夏場所、ヒザに大ケガを負い、痛みに耐えて武蔵丸を破り優勝したときもそう思いました。そしてケガからも復活も・・・。

貴乃花 鬼の形相

平成14年秋場所、7場所連続の全休の後、横綱貴乃花は強行出場します。横綱審議委員会の渡邊恒雄委員長は、「横綱だからといって、一年以上も休むことなど許されない」と秋場所の出場と、そして12勝以上が現役続行の条件とも発言します。

5日目までに貴乃花は3勝2敗、ナベツネはあわてて「今場所は勝ち越せば良しとしよう」と発言をひるがえします。貴乃花の復活を、安易に考えていたような気がします。

それは横綱審議委員会だけではなく、大相撲ファンや相撲協会も含め、つまり貴乃花以外の貴乃花を取り巻く周囲のものすべてが。安易というよりも、貴乃花ならすべてを実現してくれるという潜在意識。だからこそ、7場所連続全休でも信じて待っていたのです。

貴乃花 仕切り直し

貴乃花にとって最後の皆勤場所となったこの場所、印象に残っているのは貴乃花の表情でした。仕切り直しのときに立ち上がって、塩に戻る前に貴乃花は前方を見据えます。眩しそうに貴乃花は目を細め、しばらく遠く前方を見つめていました。あの眩しそうな目は、果たして何を見つめてたのか。

この場所、貴乃花は千秋楽まで12勝2敗。そして平成13年夏場所で相対した武蔵丸も12勝2敗。楽日決戦にまで持ち込んだのが、最後の華となりました。「貴乃花復活!」相撲以外のメディアでも、安易にこの文字が躍りました。しかし現実は・・・翌年の初場所9日目に引退を発表します。

貴乃花 引退

名伯楽と呼ばれた初代若乃花と貴ノ花との、その新たな宿命と貴乃花は親方となった今でも戦っています。あのとき、眩しそうに細めて、遠くを見つめていた目は、ふたたび大きく見開かれています。

貴乃花親方

2017年の記事ですね。2023年時点で、状況は記事を書いた当時と変わりました。

大相撲力士名鑑 : 貴乃花




砂かぶりの夜