近年では減ってしまった決まり手の代表的存在、吊り出し。
吊り出しには2種類ある、と言って良いかと思います。一つは腕力と背筋力で抜き上げるような吊り、把瑠都なんかがそうでしたね。もう一つが「腰で吊る」吊り出しです。
柔らかな下半身に、相手の重心を乗せて吊ってしまいます。だから吊られた力士は、キレイに体が浮き上がるのです。吊られた力士の足が、吊った力士の腰を支点に後方にバタつきますので、足が高く上がり美しく決まります。当然ながら、外掛けなどで防ぐことなどできません。
玉の海の吊り出しは、その「腰で吊る」吊り出しでした。
写真は177cm・134kgの玉の海が、182cm・150kgの琴桜を吊り出している場面です。当時、横綱玉の海が26歳、大関の琴桜が29歳。
玉の海は重心が低く、足腰が柔軟で強靭というだけでなく、四つ身が美しい力士でした。四つ身になったときの胸の合わせ方が絶品で、相手の脇ミツのあたりを引き付けた四つ身は、ほれぼれするほどの美しさでした。
胸の合わせ方が巧く、重心が低く、そのうえ広い肩幅。玉の海とがっぷりになっただけで、相手の重心は浮きました。強靭な足腰で、寄りながら一気に抜き上げます。
当時の幕内最長身力士、192cmの高見山を吊りあげた相撲が、特に印象に残ります。身長で15cm、体重でも40kgぐらいの差があったでしょう。
さらに高見山は足が長い力士なので、玉の海に吊られた高見山の足のカカトが、それこそ目よりも高く吊り上げられたのです。
昭和の土俵の、それは美しい名場面でした。