阿炎の攻め、あと一歩、という感じの照ノ富士戦だった。阿炎の攻めは右だけではなく左からも強く、そしてその左からの攻めを出させたのは、正面から受けた照ノ富士の受けにもあった。これからの、名勝負数え歌の始まりを予感させる一番となった、と思う。
以前の阿炎が言われていた欠点は、左からの突き押しが弱い、突っ張りの回転が遅い、の二つだった。これは、師匠である寺尾の錣山親方がよく言っていたことだ。
しかし14日目の阿炎は、充分に左が使えていた。阿炎に押された相手力士はだいたい左に回るから、それで右からの攻めが主になっていたとも言えるかな。14日目の照ノ富士のように、ガツンと受ける相手が少なかったというのもあるだろう。
そして突っ張りの回転だけれど、これはもう阿炎の今の攻めは、ほぼノド輪押しになっているから、回転の速い遅いは関係なくなってきている。ただ従来の、相手のノドを掴んで、グイグイと押し込むようなノド輪ではない。もっと柔軟性のある突きに近い押しだ。
逆に言えば、押し込むような突っ張りだ。威力を重視して押し込んでいるから、回転の速さはやはり関係がない。重要なのは足の運びになる。柔軟性のある突きのような押しなのか、威力のある押しのような突きなのか、両方の良いところを取っているのか。今場所の決まり手も、突きと押しがほぼ半分ずつ。
柔軟性という部分では貴景勝戦で決め手となった、突き手で最後にヒジと前腕部を外側に押し込むようにして勝負を決めた、あの攻めは圧巻だった。初日に松鳳山もしていたが、ヒジを支点にした前腕部での攻め、これはいつの間にか、ポピュラーな技になっていたのかな。
阿炎の攻めは右が強いから、相手はその腕を手繰るか、あてがうか、いなすか、突き落とすか、どちらにしても左に動く。そうすると右ヒジを支点に前腕部で左に回った相手力士を押せば、ちょうど胸元を正面から押す形になる。あれは貴景勝にかなり効いていた。
突き押しの力士が増えれば、当然ながら突き押しの技術は上がる。ひと昔前の、引き技がそうだった。そして突き押し力士の、その突き手を払うように引く引き落としが開発された。ほぼ同時に、レスリングの首の取り合いを応用したような、首を引っ掛ける叩き込みの技術が大きく向上した。
これらの引き技は多くの力士が身に付けたけれど、阿炎の突き押しはオリジナルに近い。近いというのは、阿武咲も似たような攻めをすることがあるからだが、リーチが違うから別物と言え、阿炎の攻めをオリジナルと呼んでも良さそうだ。
突き押し相撲も進化し、形が変わっていくのも時代の流れで、これは阿炎に限らないことだろう。四つ相撲好きの私も、その流れは認めざるを得ない。突き押し相撲が、さらにメインストリームとなるのか。
そして今場所の阿炎には、大関以上の可能性を感じる。栃木山以来、本格的な突き押し相撲の横綱が、百年振りに誕生するかもしれない。ポスト白鵬の時代は、本当に何が起こるか分からない。信じるか信じないかは貴方次第なのだ。
千代の山という横綱は突っ張りが強かったと聞くが、阿炎とはタイプが違うのだろうか。手足の長さは阿炎に似ている。
大正時代の強豪・太刀山は映像が残っていないが、一突き半→一月半→四十五日の鉄砲という恐ろしいエピソードが100年以上語り継がれている。
阿炎は上記のレジェンド横綱や栃木山に近づくことができるか。照ノ富士をあわや、のところまで追い詰めたから可能かもしれない。
ただ、照ノ富士は現在最強で、貴景勝相手に格下力士に胸を貸すような相撲で圧勝した。
ノド輪で体を浮かされても最後には軍配を受けている。ちょっと手が付けられない。阿炎はまず「打倒照ノ富士」を果たさなければいけない。
shin2さんへ
コメント、ありがとうございます。
阿炎の可能性は、その阿炎しか出来ない取口を完成させれば、期待は大きくなると思います。同世代のライバルたちを抑えて、大関レースに勝つことは出来るでしょう。それ以上を目指すには、やはり「打倒照ノ富士」ですね。来年の土俵のテーマですね。