9日目の大相撲中継で面白い話をしていた。向こう正面の君ヶ濱親方にアナウンサーが、「隠岐の海は左四つでしたが、左足で踏み込んでいましたね」と訊いた。これは、非常に興味深い質問であった。
隠岐の海は元々は右四つの力士だったけど、あまりにも左四つになることが多かったので、いつしか左四つの力士と認識されていった。そしたら隠岐の海は普通に、「私は右四つです」と答えた。
「ケンカ四つの相手と取るのが嫌で、仕方なく左四つになっていた」みたいなことを言っていたけど、初めから差し手争いをするのを避けていたということか。何と言う、奥ゆかしさ。
そして右四つの力士は踏み込む足は左足、つまり上手廻し側から踏み込む、というのも一般的な考えになったのかと、この質問から感じた。実際に一般的になるほど、上手廻し側の足から踏み込む力士が多い近年だ。とにかく、上手廻しが欲しい、ということだ。
上手廻し側が攻撃的で、逆は消極的、ということだろうか。だから四つになっても、上手廻し側の足を前に出すことが多い、ような気がする。この場合、実況などで「逆足だ」なんてことを指摘することは、ほぼ無い。
舞の海はこれに答えて、「私は左四つだったけど、左足からしか踏み込めなかった。逆だったら、一気に持って行かれた」と語っていた。しかし実は舞の海の方が、トラディショナルなのだ。もちろん現代相撲にとっては違うのかもしれない。
何と言うか、特に今場所は星の潰し合いだが、これにはこの攻撃重視の相撲のスタイルが関わっていると思う。だから強敵相手に素晴らしい相撲で勝った翌日に、あっけなく負けてしまう。これは攻め中心の相撲だから、当然の流れなのだ。
守りに弱い相撲が多い昨今の土俵で、今場所粘り強く凌いでいるのは熱海富士だ。特別の残り腰があるというのではなく、執念で残している感じだ。いくら「グニョ~~ン」と反っても、結局土俵を割ったら一緒だからね。
執念と、足の運びとアゴの締まり。そのいずれもが、豊富な稽古に裏打ちされている。その熱海富士が高安と直接対決の10日目、大一番だ。